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生産者インタビュー〜岡山県倉敷市のワイナリー GRAPE SHIP(グレープ・シップ)松井 一智〜

GRAPE SHIP-グレープ・シップ-

松井 一智-Kazunori Matsui-

Profileプロフィール

GRAPE SHIP 株式会社代表/ヴィニュロン(ぶどう栽培兼ワイン醸造農家)
関西でフレンチレストランのシェフ時代に、ワインと料理の研究のためフランスに留学。現地でナチュラルワインの世界を探求、感銘を受ける。帰国後、醸造家になることを目指し、地元岡山県倉敷市船穂町で130年の歴史を誇るマスカット・オブ・アレキサンドリアの生産を学ぶ。

2012年 新規就農。
2017年 ワイン用のマスカット・オブ・アレキサンドリアの収穫に成功。
2019年 初めてのナチュラルワイン「M」が完成する。
2021年 GRAPE SHIP 株式会社を設立し、醸造所が完成。

-GRAPE SHIP(グレープ・シップ)-
ワイン醸造家の大岡 弘武氏のワイナリー「ラ・グランド・コリーヌ・ジャポン」の立ち上げにともないワインの生産を手伝った松井 一智が2012年から独立し岡山県倉敷市船穂町産のマスカット・オブ・アレキサンドリアから自然派ワインを造るぶどう農家兼ワイン醸造所。

松井 一智を紐解くキーワード

最初に〜今回のインタビューを行った背景〜

全国のマスカット・オブ・アレキサンドリアの90%以上を生産する岡山県。その歴史は、明治19年(1886年)までさかのぼることができる。今回のインタビューの場所は岡山県倉敷市船穂町。ここで食用ぶどうとワイン用ぶどうを栽培し、ナチュラルワインを手がける生産者がいる。彼の手には、この地で受け継がれた技術と知恵があり、それを次の世代へと紡ぐための強い使命感を持ってワイン造りを行っていた。自然の恵みを最大限に生かし、自身ができる最大限の努力を惜しまず、マスカット・オブ・アレキサンドリアの魅力を余すところなく伝えるその姿勢は、ヴィニュロン(ぶどう栽培兼ワイン醸造農家)としての誇りと責任を象徴しているように感じることができる。今回は、そんなマスカット・オブ・アレキサンドリアからワイン造りをするGRAPE SHIP-グレープ・シップ-の魅力を伝えていきたい。

撮影場所:GRAPE SHIP-グレープ・シップ-の醸造所内オフィス
右:グレープ・シップ 松井 一智氏/左:信濃屋バイヤー 加藤

新たな船出~ぶどう作りへの冒険~

「GRAPE SHIP」の名前に込められた思いや願いは何ですか
松井 一智(以下、松井):

理由は2つあります。まず、マスカット・オブ・アレキサンドリアは全国で随一のシェア(9割以上)を持ち、岡山県を代表する特産品となっています。特に岡山県内でも一番の生産量を誇るのが船穂(ふなお)です。この船穂で作られるマスカット・オブ・アレキサンドリアは「丸船」と呼ばれる愛称で知られています。

加藤 雅也(以下、加藤):

船穂の先人たちが脈々と受け継いできたマスカット・オブ・アレキサンドリアの「丸船」を後世に伝えていくために「船穂」「丸船」から「船=SHIP」をもらったのですね。もう一つの意味は何でしょうか。

松井:

私の家族は代々、倉敷市で船乗りを営む家系でした。幼少期は海の町で育ちましたが、家業を継ぐことはせずに陸に上がってワイン造りの道を選択しました。ワイナリー名を考えたとき、家族に思いを馳せ、せめて名前だけでも船乗りの家系を伝承しようと考え「GRAPE SHIP」としました。

加藤:

どちらの「SHIP=船」の意味にも大切な思いが込められているのですね。

愛称「丸船」の起源である船穂で作られたマスカット・オブ・アレキサンドリアを出荷する際、段ボールに印字されているロゴの写真。

「船」の字が「丸」で囲まれていることから「丸船」と呼ばれています。

ワインと料理の研究のためフランスに留学したとお伺いしましたが、どのようにナチュラルワインと出会い、ナチュラルワインに感銘を覚えたのでしょうか
松井:

ナチュラルワインを好きになったきっかけの1本は「ル・カノン・ロゼ・プリムール」です。ラ・グランド・コリーヌの大岡さんが造っていたロゼワインです。

加藤:

なるほど。「ル・カノン・ロゼ・プリムール」から感銘を受けて誕生したのが、マスカット・オブ・アレキサンドリアから造るロゼワイン「朱」※1ということになるのでしょうか。

松井:

そのとおりです。大岡さんがラ・グランド・コリーヌ・ジャポン※2を立ち上げた際に「ル・カノン・ロゼ・プリムール」は生産を終了しました。その後、ラ・グランド・コリーヌ・ジャポンで大岡さんと仕事をする中で、一つの感情が芽生えました。それが、あの感銘を受けたワインを自分自身で造ってみんなに届けたいという思いです。その思いは今も変わらないので「朱」が生産量で一番多い理由にも繋がります。

加藤:

今も変わらぬ原動力が素晴らしいと思います。味わい以外に印象に残ったワインとの出会いはございましたか。

松井:

フランス人の中に日本人が一人だけで働いている中でも、就業先の方々がハウスワインを振舞ってもてなしてくれることがとても嬉しかったのを覚えています。そこで飲んだワインは、深く考えずに楽しむことができるワインで、ナチュラルワインなどの分別も気にせず、ただただ美味しいと感じられる印象的なものでした。

加藤:

ワインの魅力の本質に触れた素敵なお話だと思います。

※1 朱の詳細はこちら

※2 ラ・グランド・コリーヌ・ジャポンの詳細はこちら

ラ・グランド・コリーヌ・ジャポンで大岡さんからも学び、独立して間もなくから世間の期待と評価も高かったと感じておりますが、どのように感じておりますか
松井:

ワイン造りは、他のワインと競争している訳ではありません。ただ、自分の造るワインが好きな人に飲んでもらえることがあれば、それだけで十分幸せです。ですので、あまりそのような実感はありませんでした。

加藤:

今の言葉は、松井さんが造るピュアなワインのイメージに重なりますね。また、カラフルでポップなバリエーションのラベルや日常の食事にぴったりの優しい味わいが、食卓に彩りを添えてくれるように感じます。

松井:

ありがとうございます。これからも、優しい味わいのワインを表現し続けて、日常に気軽に寄り添えるようなワインを造り続けたいと思っています。食卓を囲んだとき、普段はワインを飲まない方でも手に取りたくなるようなデザインや、思わず口にしたくなるような香りや味わいを目指しています。

加藤:

QRコードを掲載することで、消費者が興味を持って調べたくなる楽しさを感じるのは素晴らしいアイデアですね。エチケットのカラーバリエーションについても特別な理由があるのでしょうか。

松井:

はい、あります。ワインをリリースするようになってから、ワインの種類が1種、2種、3種と増えていったときに「信号機みたいだね」と言われたことがありました(笑)私自身は信号機よりもむしろ「虹」に見えていました。そこから7種類のカラーをリリースし「虹色」を完成させました。

加藤:

我々は店頭販売もしています。店頭にずらりと並んだワインの中に虹色のラベルが並んでいたら、お客様の目を引き、雰囲気も華やかに感じることでしょう。ここまで来たら7種類とは言わず、どんどん新しいワインを造り続けてもらいたくなりますね。

畑に関して-GRAPE SHIP 松井氏のコメント-

私達は、岡山県倉敷市の船穂鶏尾(ふなおけいお)地区で、マスカット・オブ・アレキサンドリアという品種のぶどうを栽培しています。

土はさらさらでもなく、かといってネバネバもしていない。ちょうどその中間のほろほろ、砂じょう土と呼ばれる水はけの良い土質が特徴です。決して収穫量は多くはありませんが、実の中に甘みと香り、すべてがぎゅぎゅっと凝縮された美味しいぶどうが育ちます。

「晴れの国」とも言われるほどに、雨が少ない岡山県。日照時間とその光量も日本随一。食用ぶどうの産地としてはこれ以上の良い土地はなかなかありません。

しかし、近年には栽培を断念する農家が増加し、放棄されたぶどうの温室が目立つようになりました。せっかくの素晴らしい場所と設備をこのまま放っておく手はありません。そこで、使わなくなった温室を借り受けて、ワイン用のぶどうを有機栽培するようになったのです。

瀬戸内海をのぞむ、風通しの良い、南向きの丘で育まれたぶどうは天下一品。この大地と瀬戸内の太陽の恵みがあるからこそ、他に類をみないぶどうが生まれるのです。