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札幌から発信する家族でつくるフランス料理文化-フランス料理店mondo 小川 水美

札幌でワインと向き合うということ

札幌という土地でお店を構えるうえで、どのようなワインでのアプローチが必要だと考えていますか
小川:

そうですね、やっぱり札幌という場所にどう向き合うかというのは常に考えています。たとえばワインのスタイルで言えば、ヴァン・ナチュール(※ナチュラルワインと同義語)を選ぶのか、クラシカルなタイプを選ぶのか。そのあたりはシェフの世代やお店の方向性によって変わってきます。札幌には若い世代のシェフも多くて、30代・40代の方はヴァンナチュールを使われる方が多い印象です。その中でうちの料理はどちらかというとクラシカルなので、やはりそれに合うのはクラシカルなワインになるのかなと思います。

加藤:

日本ワインのなかでも、北海道は特に注目度の高い産地ですよね。その影響もあって、ヴァン・ナチュールのイメージが強いのもよく分かります。ただ、お客様の好みと、自分たちが表現したい世界観とのバランスはやはり大切ですね。

小川:

そうですね。お店として「何を大切にするか」という部分と、お客様が楽しみに来てくださる部分のバランス。その両方をどう取るかは、常に考えています。北海道の料理や食材を軸にしている以上、地域性も無視できません。ワインも「土地をどう表現するか」という視点がすごく大切だと思っています。

加藤:

素晴らしい考えだと思います。北海道ワインについてはどう感じますか。

小川:

すごくポテンシャルを感じます。我々も日本ワインを扱う中で、いま一番注目されているのは間違いなく北海道だと思います。余市、仁木、そして最近では函館の北斗などでも若い生産者が増えていて、本当に活気があります。北海道のワインは、飲むと「この土地のワインだ」と感じることができるのが特徴だと思います。たとえば余市のピノ・ノワールなら、どの造り手でもどこか共通した香りや出汁感があります。それが一つの「北海道のテロワール」として定着してきたように思います。

加藤:

確かに、最近は北海道ワインの「出汁」というキーワードを耳にする機会が増えました。私自身、北海道の生産者を訪ねた際にも同じ言葉を何度も聞いてきたので、その表現がようやく形となり、産地の個性として定着してきたのだと実感しています。

小川:

それが北海道のテロワール表現として受け入れられているのは面白いですよね(笑)海外のようにテロワールをストレートに表現するのは難しいですが、北海道は少しずつその輪郭が見えてきて、そこが日本ワインの中でも一歩二歩先を進んでいるからこそ今の評価があるのではないかと想像しています。

今、注目している産地やブドウ品種などはありますか
小川:

個人的には、改めて「ボルドー」です。昔からボルドーは好きですが、改めて見直す価値があると感じています。ワインの高騰が続く中で、ブルゴーニュと比べても味わいと価格のバランスがまだ保たれていると思います。そして、熟成した時の変化が素晴らしいです!!自分たちの世代は基本的にボルドーからワインの世界に入った人が多いように感じています。今の若い世代はブルゴーニュやジュラ、ヴァン・ナチュールから入る人も増えています。そういう流れを見ながら、もう一度ボルドーの魅力を伝えたいなと思っています。

加藤:

とても興味深い視点ですね。近年、需要の低迷などさまざまな課題に直面しているボルドーワインですが、改めてレストランというシチュエーションにおいては、どのような魅力を感じていますか。

小川:

例えば「シャトー・カントメルル」など、格付けシャトーなどの価格帯もまだ手が届く範囲のものが多いですし、全体的に値上がりしている中でも、レストランで使いやすいワインがしっかりあります。そういう意味では「王道ながら穴場」のような存在だと思います。種類も豊富ですし、有名シャトー以外にも美味しいボルドーはたくさん存在しています。特に秋以降になると、ボルドーワインがより美味しく感じられる季節でもあります。普段あまり飲まない方でも、久しぶりに飲むと「やはりいいな」と思えるワインが「ボルドー」だと思います。

加藤:

なるほど。ワイン単体と言うよりかは、料理とのペアリングを楽しんでいただくという意味では、ボルドーワインはその懐の深さを感じさせられるかもしれませんね。水美さんがレストランでワインを選ぶ際の基準を教えてください。

小川:

まずは産地と造り手の考え方を見ます。「どんなストーリーを持ったワインなのか」という点を重視します。そのうえで、価格と味わいのバランスが取れているかも重要です。そして最後の選考基準は「誰がそのワインを扱っているか」です。インポーターから酒販店まで、しっかり温度管理・品質管理ができているかどうか。たとえば真夏に常温輸送されているようなワインは、どんなに良い造り手でも扱うのは難しいです。だからこそ、多少値段が上がっても、信頼できる流通経路から仕入れるようにしています。

加藤:

おっしゃる通り、ワインは「造り手」「産地」「ストーリー」だけで語りきれない部分が多くありますよね…私もバイヤーの立場として、まず最初に造り手の哲学や畑の背景を深く理解することを大切にしています。最終的には「現地で味わうワインをお客様のグラスに届けたい」という思いがありますので、扱う場所は違えど判断基準は共通するところが多いなと思います。
私たちは小売の立場ですが、レストランから見たワインショップはどんな存在ですか。

小川:

すごく大切な存在だと思っています。レストランはワインを提供する場所ではありますが、ワインを好きになってもらうきっかけをつくる小売店の存在を忘れることはできません。良いショップはお客様を育ててくれる存在。知識を深めることで「次はこのワインを試してみよう」といった循環が生まれるのが理想的だと思います。そういう循環があると、ワイン文化全体が豊かになりますよね。

加藤:

私たちも直営店舗を運営している立場として、信頼できるレストランから「このショップ良いよ」と言っていただけることは、本当に心強い後押しになります。お客様が手に取るワインが良い状態で、かつ丁寧に説明が添えられていれば、その一本をきっかけに次のワインに興味が広がっていく…そういう文化を育てる循環が、ショップとレストランの双方で生まれていくことが、ワインの裾野を広げるうえでとても重要だと感じています。ワインの管理や提供について意識していることはありますか。

小川:

やはり一番大事なのは状態管理だと思います。ワインは生鮮品と同じだと考えています。どんなに小さな店でも、温度・湿度・光の管理を徹底していれば、それが信頼につながると思っています。レストランではグラスの種類や提供温度など、細かい部分もこだわる人が多いですが、基本は「丁寧に扱う」こと。そこに尽きると思います。

加藤:

レストランでワインを扱うのは、細かい気遣いが本当に大切ですよね。今はヴァン・ナチュールなど多様性も多いですから、一昔以上に取り扱いはお店によって個人差が出る部分でもあるのかなと思います。

小川:

そうですね。自分としては、どの程度をワインの欠陥と感じるかは人によって個人差があると思います。いわゆる還元臭や酸化など…その線引きは難しいところです。ワインの状態ひとつで、お客様がワインそのものを嫌いになってしまう可能性もあると思って扱っています。だからこそ、提供する側の判断がとても大切です。経験豊富なお客様には「数日前に開けたワインでも味わいが落ちていないなら」と出すこともありますが、そうでない方には新しいボトルを開けて提供しています。お客様にとって最初の一杯が、ワインの印象を左右します。

加藤:

ボルドーワインを選んだ理由にも合点がいきました。それは、お話の中にあった「時間による変化」の面白さです。若いヴィンテージは開けたてでは硬い印象がありますが、時間が経つと香りが開き、味わいがやわらかくなっていく…その移り変わりこそがボルドーワインの最大の魅力ですよね。

印象に残っているワインはありますか
小川:

私がモノリスで働いていた頃、休日にアピシウスで研修をさせていただいていました。その際にテイスティングさせてもらった「2004年 クロ・ド・タール」が、今でも強く印象に残っています。ピノ・ノワールは造り手やテロワールによってここまで表情が変わるのかと、衝撃を受けた一本でした。私にとって忘れられないワインです。

加藤:

2004年のワインを2018年頃に開けていたことになりますね。2004年は決してヴィンテージの評価が高い年ではありませんが、14年の熟成を経たワインの印象はいかがでしたか。

小川:

ちょうど飲み頃の時期に入っていて、非常にいい状態でした。最近は2014年ヴィンテージがすごく美味しい。去年の冬にドミニク・ローランのシャルム・シャンベルタンを開けたんですが、それもすごく良くて…今で言うと、2012年から14年ヴィンテージのワインがちょうど飲み頃かなと思います。ブルゴーニュもボルドーも、今飲むとバランスがいい時期だと思います。

加藤:

市場では、2014年のブルゴーニュを探すのは本当に難しいですよね(笑)。その点、ボルドーであればまだ探しようがありますし、2012年から2014年あたりのヴィンテージはおっしゃる通り、どれも柔らかく優しい味わいのものが多い印象です。こうした滋味深い年のワインこそ、10年ほど時間が経った今だからこそ染みる味わいだなと思います。

インタビュー恒例の質問です。「仕事の信条」を教えてください
小川:

難しい質問ですね(笑)昔は「嘘をつかない」とか思っていましたけど、仕事ではタイミングや言葉の選び方が大切で、必ずしも正直だけで成り立つわけではないと思うようになりました。今は「バランス」ですかね。トータルで見て、なるべくフラットに物事を考えるようにしています。お客様との関係だけでなく、取引先との関係も含めて、最終的には「人」で決まると思っています。この人だから付き合いたい、この人だから買いたい、そういう信頼関係が仕事の根底にあると思います。

加藤:

若いのに、自分の言葉でしっかりと芯のある考えを持っていらっしゃることに驚かされます…私たち小売・インポーター側もまったく同じで、造り手やレストランの方々と仕事をする際は、最終的に「この人と一緒に仕事がしたいか」という「人」が軸になります。水美さんがおっしゃる「バランス」という言葉は、そうした関係性を長続けていくうえでの土台そのものだと共感しています。