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生産者インタビュー〜徳島県三好市のワイナリー Natan葡萄酒醸造所 井下 奈未香〜

Natan葡萄酒醸造所

井下 奈未香-Inoshita Namika-

Profileプロフィール

奈良市出身。5児の母。20代でシングルマザーになり、たまたま入ったワインバーで働くことに。ワインバー兼ワインショップを運営しながら、ワイナリーの農作業ボランティアに通い「ワインは農作物である」という想いをソムリエとして信念にしていた。30歳を目前に、ある出来事からワインへの深愛を再確認し、醸造家を目指す。2014年結婚を機に徳島県へ移住。2016年から休耕地を開墾・植樹し、毎年葡萄園を広げ、2021年Natan葡萄酒醸造所を設立する。

-Natan葡萄酒醸造所-
ソムリエとしてお客様に伝えたかったその想いは、いまの原点であり信念である。栽培では環境を整えることを重視し「人間の主観で美しい状態」ではなく「葡萄が他生物と共存共生する多様な状態」を目指し、徳島県三好市の地でこの圃場(農作物を栽培するための場所)が存在する意味を意識しながら開墾から栽培を行っております。醸造に関しても、葡萄それぞれの個性を活かすことを基本とし、添加物に頼らず、温度や気体などの環境資源とともに味わいを引き出していくことをモットーにしています。濾過は行わず、素材のありのままをお届けします。生きたワインたちとの、その瞬間瞬間の二度とない出会いを感じていただけることを願っております。

Natan葡萄酒醸造所&井下 奈未香を紐解くコンテンツ

最初に〜今回のインタビューを行った背景〜

近年、ジェンダー平等の意識が高まり、性別に基づく役割分担や社会的地位による制約を超えて個人が自由に選択できる社会に変化を遂げてきている。女性が社会的かつ経済的に活躍する場が拡大し、そんな女性のライフスタイルやキャリアなど、さまざまな分野で女性が取り上げられるのは当たり前のことになった。では、我々がいるワイン業界はどうだろうか…ひと昔前に比べると、レストランや小売店の販売員、輸入代理店などに女性が活躍する場が拡大したと言えるだろう。しかしながら、ワイン生産に関わるその数はまだまだ発展途上の段階にある。今回は、そんなワイン生産者でありながらも5人の子供を育てている女性醸造家にスポットを当てて、この以信伝心を届けたい。このインタビューを通して、井下さんを始めNatan葡萄酒醸造所のメンバーがワインに込めた思いがワインラヴァーだけではなく、今を生きる女性へも届いてほしい。

Natan葡萄酒醸造所 井下さん
撮影場所:Natan葡萄酒醸造所 併設ショップ内

女性的感性から発信する、ワインとの新たな出会い

今回のインタビューにあたり「以信伝心」は読まれましたか。またどんな印象を持ちましたか
井下 奈未香(以下、井下):

今回の出演をキッカケに拝見しました。最初に出演された※1Restaurant TOYOの成澤さんが「グラン・メゾン東京」の監修をされていたのを存じていて、成澤さんがNatan葡萄酒醸造所を紹介してくれたことがあって驚いたのを覚えています。また、日本ワインのイベントでは※2島田さんともお会いしたことがあります。

加藤 雅也(以下、加藤):

ご覧いただきありがとうございます。成澤さんはワインのトレンドを捉えるアンテナが幅広く柔軟ですからね。それに、島田さんは日本ワイン普及の活動をされていらっしゃいますので、面識があるのも理解できます。我々も去年末に開催された日本最大級の日本ワインの祭典「Vin Japonais Fes 2023(ヴァン・ ジャポネ・フェス 2023)」で井下さんにはご挨拶させていただきましたね。

※1 Restaurant TOYO 統括支配人兼エグゼクティブソムリエ 成澤さんの詳細はこちら

※2 2019年 Miss Wine 準グランプリ島田さんの詳細はこちら

ワインショップの商品陳列だけでなく、イベントでも目を惹くラベルはワインからインスピレーションを受けてデザインされるのでしょうか
井下:

ラベルのデザインに関しては、味わいの印象です。もともとワインバーでお客様と対峙をしている時は「このワインを人で例えると、こういう性格だよね」とかで盛り上がることがほとんどでした(笑)ワインを擬人化したり、アロマから刺激される情緒を話すことが多かったので、Natan葡萄酒醸造所のワインも感情などをもとにラベルを表現しています。

加藤:

当時、井下さんが奈良でワインバーを経営していた頃は、まだまだワイナリーの数も少なく今ほどワイン文化は根付いていなかったのではないでしょうか。

井下:

奈良でワインバーを経営していた頃が15年ほど前のことで…当時、そこでは今ほどワインが広く受け入れられていなかったですね。ただ、その中でもお客様と一緒に「ワインってこんな楽しみ方があるんだ」と体験しましたし、これがワインならではの楽しみ方だなと私は感じています。さまざまなアロマや味わいの多様性をラベルに落とし込んで、ジャケ買いをしてもらっても液体とかけ離れることのないようにデザインしてます。

加藤:

Natan葡萄酒醸造所のワインを目にすると、女性のお客様や普段ワインに興味のない方でも、足を止めて手を伸ばしたくなるデザインだなと思います。

井下:

ありがとうございます。私もワインを販売していた経験がある中で、お客様から「ワインの選び方が分からない」という声をよく聞いていました。ジャケ買いを提案することで、日常的にワインを手に取ってくれる人が増えたら嬉しいなという思いがあります。

Natan葡萄酒醸造所のワインラベル一例(過去のリリース含む)

栽培や醸造に関して-Natan葡萄酒醸造所

葡萄畑が皆無だった徳島県三好市。そこでゼロから始めたワイン用葡萄栽培は「先人のいない手探り状態」でした。大切な想いは「ともに自然に生きること」。人間の都合でスケジュール立てた薬品使用で付き合っていく関係性は、私たちにとって不自然だと感じました。

一生付き合っていくなら「お互い無理のないように…」。「無農薬」は目指していません。
でも、要らない処置はせず、私たち人間は葡萄たちがこの地で長く健康に暮らしていけるように、環境整備に徹します。

Natan葡萄酒醸造所のワインは「無添加」「無清澄」「無濾過」です。(酸化防止剤は極少、もしくは無添加)自然界が生み出した作物である葡萄のみで仕上がるワイン。その時間の中には、微生物の生命活動が行われ、気体や温度などの環境に影響を受けながら様々な個性を発揮し、複雑に味わいをつくりだしていきます。

そんな自然物たちの芸術をそのままお届けしたい。それが不格好であっても愛おしい。そう考えるNatan葡萄酒醸造所は、葡萄の音や香りや味わいを感じながら、要素のデータ算出を参考に、気体や温度、作業のタイミングなどにより、ワインへと変化してゆく道筋を誘導しています。そんな自然の産物をそのまま感じていただければ幸いです。

信濃屋のワイン専門店-Shinanoya Wine-で販売している
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