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生産者インタビュー〜北海道余市町のワイナリー Domaine Mont(ドメーヌ・モン)山中 敦生〜

北海道余市郡余市町登町から日本らしいワインを表現したい

ご実家が日本茶の小売業を営んでいらっしゃいますが、ワイン造りにおいて影響を受けた部分はありますか
山中:

ワインを造るようになってからは影響を受けた部分を実感するようになりました。自分のワインは『日本らしさ』を大切にしていて、雨が降る日本ならではの繊細さや旨味、複雑さなどを表現したいと思っています。今、思い返してみれば日本茶で学んだ『旨味・苦味・繊細』な要素がワインに通じる部分があり、根底にはそんな昔の経験があるのではないかと感じております。

加藤:

ワインと日本茶の対比で例を挙げてもらえますか。

山中:

例えば日本茶で一時期流行りましたが深蒸し茶※1があります。静岡県の牧之原は深蒸し茶で有名ですが、元々は牧之原産茶葉の弱点を克服するため、通常の煎茶に比べて濃くて旨みが十分に引き出される手法を取ったことで誕生したお茶です。ワインもブドウが完熟しなければボリューム感や果実感を出すよう醸造で工夫します。このように味わいも原料(ブドウや茶葉)や造り方、生産者の思いから表現される部分でもとても似ていると思います。日本茶の要素の中でも『旨味・苦味・繊細』が好きだったので、自分のワインには似たようなエッセンスが表現されているのだと思います。

※1 蒸し時間を長くした煎茶のこと

ドメーヌから出荷したワインと一緒に手書きの『感謝』を入れている意味とは
山中:

もちろん、小売店の方々やお客様への感謝の意味もあります。あとは、旅立つワインへの感謝とお守りの意味も込めて一筆一筆手書きの『感謝』を一緒に送っています。

加藤:

素晴らしいと思います。ワインへの感謝の気持ちと言うのは生産者ならではの観点ですね。このご時世なので手書きのメッセージだからこそ伝わる思いもあると思います。しっかりとそのメッセージを我々が代弁者としてお客様に伝えていきます。

配送されて届く段ボールの中には一枚一枚手書きの『感謝』が入ってます。
信濃屋に入荷したDom Gris(ドン・グリ)の写真
実際にナチュラルワインを造っている山中さんには、近年人気が定着したナチュラルワインをどのように感じていますか
山中:

田舎(北海道)にいるとナチュラルワインブームのようなものはあまり実感がないですが…(笑)飲み手側の意見としては、以前より好きな生産者のワインが手に入らないなと感じることは増えました。

加藤:

確かに…ナチュラルワインに限らず、人気なワインは本当に手に入らなくなってきましたね。では、生産者の観点からはいかがですか。

山中:

私の場合はナチュラルワインを造っているという実感はないですけど…「自然派ワインを造りたい」というよりは「日本らしいワイン」を造りたいが為に取った手法が、ナチュラルワインと呼ばれる結果になったのだと思います。日本らしいワインを突き詰めていくと、培養酵母よりも野生酵母の方が繊細さや複雑さが表現できます。そして、野生酵母を使うにはブドウ造りも殺菌剤(殺虫剤)を使わない方が野生酵母が付着しやすく複雑さが増します。私のワインは亜硫酸は無添加ですが…亜硫酸もなるべく使わない方がワインは繊細でいられます。日本人は元々、農耕民族なので『繊細さや、やさしい味わい、複雑味』というものが好みだと思うんですよね。ナチュラルワインが日本に定着した理由は、それらの要素がナチュラルワインの特徴にあるので、日本人の味覚に合ったのだと思います。

加藤:

なるほど。日本人の味覚に合ったことで、自然と歩み寄っていったのかもしれませんね。

様々なワインに出会ってきた中で、海外のワインにはない日本ワインならではの魅力はありますか
山中:

日本のワインはリリース当初でも美味しく飲めるのが魅力的だと思います。海外のワインだとリリースしたばかりでここまで美味しいワインは多くはないと感じます。

加藤:

納得です。確かに日本ワインは早くから楽しめる印象がありますね。我々も海外のワインを販売するにあたり、飲み頃を迎えるまで自社倉庫でワインを熟成させてからリリースすることで、そのワインが持つポテンシャルが発揮されている段階で販売するようにしております。

山中:

今の話と真逆のことを言ってしまいますが…少し我慢して熟成する文化も今後は根付いてほしいなと願います。海外のワインのように10年20年待ってほしいとは言いませんが、リリースしたてでも美味しいからと言ってポンポン開けられてしまうのも生産者側からすると少し待ってほしい気持ちもあります。もちろん全然、好きなタイミングで開けて貰えればいいのですが(笑)

加藤:

確かに…日本ワインで熟成した状態で出会うことは、海外のワインに比べると断然に少ないですね。我々も販売するタイミングを考えながらリリースしていくことも大切だと改めて感じることができました。

ワインのネーミング(ワイン名)が覚えやすくて印象的ですが、特別な思い入れを込めて名付けたのですか
山中:

やっぱり名前は覚えてもらいたいので、その一心で自分自身で名付けました。

加藤:

ラベルのデザインや、ネーミングの言葉遊びなども覚えやすくて随所に山中さんのセンスが光りますね。ドメーヌ名にも山中さんの『Mont(フランス語で”山”の意)』が入っていますし、家紋などからも日本らしさを感じることができます。

※一例『Domaine Mont(ドメーヌ・モン)がPinot Gris(ピノ・グリ)で造ったワイン = Dom Gris(ドン・グリ)』など…

※ドメーヌ・モンの家紋についてはこちらから