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restaurant Nabeno-Ism 支配人 神田 岳志氏に学ぶ”最高の自分になるため”の道標

ソムリエの魅力と責務

印象に残っているワインはありますか
神田:

この仕事を継続できている源でもありますが…ロマネコンティです。
しかも、ヴィンテージが1945年。1947年に新たに植えかえられたので、1945年ヴィンテージがロマネコンティの原型を伝える最後のヴィンテージとも言われているワインです。

加藤:

ベタなのかもしれませんが、1945年は初めて聞きましたね…どのようなシチュエーションでどのような印象でしたか。

神田:

Restaurant ”W”(六本木:フランス料理-閉店-)時代ですね。ワインも勉強している最中、あるお客様に勉強のためにと一杯いただきました。例えると、ファンクラブに入っているほど大好きなアイドルのコンサートに行くと、そのファンの方は鳥肌が立つと思うんですよ。それと同様に、そのワインを飲んだ時には全身の鳥肌が立ちました。そんな経験は後にも先にもありません。

加藤:

当時で50年熟成ほどですか…味わいはいかがでしたか。

神田:

ロマネコンティは、しばしば次のように表現されますが…言わば完全な球体です。液体がどこを伝って体内に浸透していくかがはっきりと分かりました。貴重な体験をお客様に勉強させていただきました。味わいの思い出でもありますが、当時のお客様に育てて頂いた御恩も忘れることができません。

仕事での信条はありますか
神田:

感謝を忘れず正直であることが信条です。私はソムリエという職業は、いちサービスマンだと考えています。結局は人と人の繋がりなので、人間性を高めていくことが大切だと思っています。

加藤:

神田さんが言うと言葉に重みがあり、この時代だからこそ心に刺さるメッセージだと思います。今の時代、感謝を口にする機会は減ってきましたけれども、感謝の気持ちを謙虚に、素直に伝えていくことは大切だと思い返すことができました。

これからレストランやソムリエとして働きたいと考えている人に向けて、伝えたいことはありますか。
神田:

若い方々も既に頑張っているので…ただ、次のソムリエを目指していく世代に期待してしまう事は、ワインの思慮を深めて新しいステップを開拓してもらいたいと思います。ひと昔に比べて、ワインは日本の文化に定着したと言えると思います。そこをもう一歩進んでいけたら良いかなと思います。

加藤:

深いですね…今では昔であれば経験できたことも、経験することが難しい時代だと言えます。ひと昔前に比べて、今は入社したタイミングで、ある程度土台ができたレールに乗ることができると思います。もちろんポジティブな要素もあれば、反面ネガティブな要素もあると思いますが…足りない経験を補うためにはどうすればよいでしょうか。

神田:

今はネットを開けば何でも情報が手に入る世の中です。グーグルマップを開けばフランスのブドウ畑にも行けます。リアルではなくても、レビューを見れば飲んだ雰囲気を演出することもできるかもしれません。ただ、百聞は一見に如かず。自分の体験を言葉にしたり、行動を起こすことで得られる経験があります。AIに負けない人間性とオリジナリティを持つことが大切です。信条の話に繋がりますが、感謝を忘れず正直であることが素晴らしい経験を引き寄せるのだと思います。

加藤:

体験談を元に貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。これからも神田さんから刺激をいただきながら、感謝の気持ちを忘れずより成長していきたいと思います。 本日はありがとうございました。

東京/恵比寿にあるシャトー・レストランジョエル・ロブションで長年エグゼクティブシェフを務めた渡辺雄一郎氏が2016年7月7日東京浅草駒形 隅田川ほとりにて開業したレストラン Nabeno-Ismベノ-ズム。

Nabeno-Ismナベノ-イズムとは、渡辺雄一郎氏のニックネームである「なべシェフ」から取った「ナベノ」と、主義や流儀を表す「イズム」を組み合わせた造語。そして別の意味も込められています。それは、渡辺シェフの恩師である辻静雄校長先生は浅草の地に眠っています。「Nabeno-Ism」の“N”を隠すと「abeno-Ism」となり、辻先生の興された辻調理師専門学校の本拠地である大阪阿倍野を想起させます。

日本の風土に意識を傾けながらフランス料理の本流・定義・伝統を守り、進化させ、独自の感性で楽しく美味しい料理を創り、浅草駒形という土地と融合させてフランス料理の未来を器に描き出します。

Nabeno-Ismベノ-ズムのテラス席から見えるスカイツリーの前
左:神田 岳志氏 右:加藤 雅也

あとがき

ソムリエとして、先人の思いを未来へと受け継いでいる神田さんに深く感銘を受けました。その魅力がここでは表現しきれなったかもしれません。

Nabeno-Ismベノ-ズムでは自分達の仕事に誇りを持ち、受け継がれる伝統と文化に思いを込めて料理やワインを提供してくれます。そんな彼らが提供するものは、単に料理やワインではなく、先人の思いまで込められたメッセージでもあります。

我々が、その魅力を言葉にして広めていくこと・継承していくことは私たちの使命でもあるように感じました。この記事を読んで頂いた皆様にワインの魅力だけではなく、ソムリエという職種、レストランの魅力、それらが少しでも伝わってくれれば嬉しく思います。今後もワインだけでなく、ワインを取り巻く素晴らしい魅力をも伝えていきたいと思います。

文末になりましたが、取材にご協力いただいた神田さん、お忙しい中にも関わらず撮影場所を提供して頂きましたNabeno-Ismベノ-ズム関係者の皆様、本当にありがとうございました。

インタビュー:加藤 雅也/文:升田 浩輔/撮影:浦川 なお

撮影場所:restaurant Nabeno-Ism

この記事のインタビュアーは・・・

加藤 雅也 -Kato Masaya-

鳥取県出身。ホテルオークラ東京(現TheOkuraTokyo)で当時、国内随一の人気と格式のあるフレンチレストランLaBelleEpoqueにてサービスに従事。数々の海外星付きシェフのフェアなど経験し、フランス料理の神髄とサービスマンとしての振舞いを学ぶ。その後、丸の内再開発プロジェクトとしてOPENした、ミクニ・マルノウチにてソムリエに就任し、当時PP100点のボルドー ワインを全てオンリストするなどして話題に。そして若手ソムリエコンクール(当時25歳以下)にてファイナリストを経験。ソムリエとして更なる飛躍を目指し、当時パリ一つ星「STELLA MARIS」 の吉野建氏が東京にOPENした「tateru yoshino」のソムリエに就任。 現在は、信濃屋のワインバイヤーとして、ソムリエとしての経験と世界11ヶ国のワイン生産地を訪れた現地での情報を基に、ビギナーからプロフェッショナルまで楽しめるワインショップとして業界で注目され続けている。 また人と人との出会いを大切に、オン・オフのマーケットの交流とリテールに携わる人々の社会的な向上をはかり広く社会へ貢献することをモットーに日々奮闘中。

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