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ペアリング体験記 at restaurant Nabeno-Ism

restaurant Nabeno-Ism 支配人

神田 岳志-TAKASHI KANDA-

Profileプロフィール

1974年東京都生まれ。レストラン「ナベノ-イズム」支配人・ソムリエ。
専門学校を卒業後、都内レストランでキャリアをスタート。2003年「タテルヨシノ」に入社、ソムリエとして従事。汐留店支配人兼ソムリエを経て、2020年7月より現職。WSET Level3/シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ

神田 岳志を紐解くキーワード

ミシュラン2つ星のペアリングを体験レポート

今回は、信濃屋のワイン担当スタッフも同席して、ミシュラン2つ星restaurant Nabeno-Ism(ベノ-ズム)での至極の時間を堪能して参りました。それはまさに“一生に一度の贅沢なディナー”と言っても過言ではありません。

東京/恵比寿にあるシャトー・レストランジョエル・ロブションで長年エグゼクティブシェフを務めた渡辺雄一郎氏が2016年7月7日東京浅草駒形 隅田川ほとりにて開業したレストラン Nabeno-Ismベノ-ズム。

Nabeno-Ismベノ-ズムとは、渡辺雄一郎氏のニックネームである「なべシェフ」から取った「ナベノ」と、主義や流儀を表す「イズム」を組み合わせた造語。日本の風土に意識を傾けながらフランス料理の本流・定義・伝統を守り、進化させ、独自の感性で楽しく美味しい料理を創り、浅草駒形という土地と融合させてフランス料理の未来を器に描き出します。

そして、神田支配人が提案してくれたワインペアリングも素晴らしかったです。ワインと料理のペアリングは絶妙で、食事とワインが相乗し、これぞ“マリアージュ(結婚)”と言える相性の良さを体験させていただきました。

ミシュラン星付きレストランでの食事は、高価で特別なものです。しかし、そこに行かなくては味わうことができない料理と時間、もちろん素晴らしい人に美味しいワインにも出会うことができます。

もちろん一般的なレストランも大切でかけがえのない存在です。十二分に理解はしていますが…今回お伝えしたいのは、夢のような経験であり、その記憶と時間を共有することでワインの新しい発見をしてもらえればと思います。是非、ワインを片手にこの記事を読んでください♪

料理とワインのペアリング

L’Amuse-bouche

プロヴァンス風ガスパチョ カフェフランセ仕立て ミントのエキューム
カンパリの香りとブラックタピオカをひそませて
近隣老舗(大心堂、種亀)とのコラボスナック
種亀最中のミニタルト 枝豆とフムス、鶏のハツのコンフィとハラペーニョを重ねて
Nabeno-Gougère (クレーム・ド・サンマルスラン、雲丹)
アントナン風グリーンオリーヴマリネ
セグロイワシの酢漬けとラディ・オ・ブールのピンチョス 『鰯の胡麻漬け』のインスパイア

Champagne

コンベルサシオン ブリュットN.V. -Conversation Brut N.V.-

ワインの詳細はこちら

上段左:プロヴァンス風ガスパチョ
カフェフランセ仕立てミントのエキューム
カンパリの香りとブラックタピオカをひそませて
下段左下:近隣老舗(大心堂、種亀)とのコラボスナック
下段右:種亀最中のミニタルト 枝豆とフムス、
鶏のハツのコンフィとハラペーニョを重ねて
上段右:Nabeno-Gougère
(クレーム・ド・サンマルスラン、雲丹)
上段中央:アントナン風グリーンオリーヴマリネ
セグロイワシの酢漬けとラディ・オ・ブールのピンチョス
『鰯の胡麻漬け』のインスパイア

CHECK

前菜の中でもひときわひときわ異彩を放つのは…ベノ-ズム創業時からの1番バッター。(写真下段右)

浅草地区の代表的な味である大心堂雷おこし※1を、フランス食文化の核心となるバターと組み合わせた前菜。
バターは渡辺シェフの師であるロブション氏の故郷ポワトゥーシャラント産発酵バター。一口に六味(甘味、酸味、苦味、塩味、辛味、旨味)を潜ませ、舌の味蕾全てを刺激しつつ、雷おこしの歯応え、咀嚼音により食欲神経を覚醒させます。

※1 雷おこしは御徒町の老舗大心堂の古代黒糖バージョンを使用。詳細はこちら

特別な瞬間を過ごせるメインダイニングからはスカイツリーが望めます。
乾杯酒:コンベルサシオン ブリュットN.V. -Conversation Brut N.V.-
加藤のコメント:

シャルドネ100%のブラン・ド・ブラン。グレープフルーツや白桃、ジャスミンのニュアンスから、シャンパーニュらしいビスケットやナッツの香りが特徴的です。ブラン・ド・ブランらしい力強いシャルドネが存在感を発揮し、ミネラル感もあり全体をピュアにまとめあげています。
特に大心堂雷おこしをバターと組み合わせた前菜とは、極めて相性抜群でした。和のエッセンスとバターやワインの洋風なエッセンスが加わり、口の中で美しいハーモニーを奏でました。

神田氏のコメント:

ナベノ-イズムのアミューズは一口に5味+1(甘味、塩味、苦味、酸味、うまみ味)+辛味といった味わいの重なり、食感を楽しんでいただきながらも味覚の準備運動…まさにアミューズブーシュであると思います。
食前酒としてのシャンパーニュは泡は口内をリフレッシュさせ、また一口と食を進めさせてくれます。季節によって様々なシャンパーニュを使わせていただいております。夏場はキリッと味わいのしまったブラン・ド・ブラン、少し肌寒くなる頃には比較的黒ブドウの比率が高い柔らかで豊かな味わい、クリスマスやイベントにはプレステージでゴージャス感を演出してみたり、春先には華やかでバランス感のいいものと、この後に続く食事の期待感が湧きあがるようなイメージで選定しています。

La Farine de sarrasin

両国江戸蕎麦ほそ川の蕎麦粉をソースエミュルッショネの技法で炊き上げたそばがき
奥井海生堂蔵囲い2年物極上利尻昆布のジュレとのアンサンブル
キャビアオシェトラ、アオリイカのタルタル、ウォッカクリーム、おろしたて天城山葵をのせて

Japanese sake

仙禽(せんきん) 純米大吟醸 麗(うらら)

日本酒の詳細はこちら

restaurant Nabeno-Ism(ベノ-ズム)渡辺シェフのスペシャリテ

CHECK

restaurant Nabeno-Ism(ベノ-ズム)渡辺シェフのスペシャリテ。

江戸ソバリエの資格を持つ渡辺シェフが取得当時通い詰め惚れ込んだ両国江戸蕎麦ほそ川※2の蕎麦粉をフランス製銅鍋、シリコン加工ホイッパー、プラック熱源で一気に炊き上げ、フランス産発酵バターで乳化させたオリジナルの冷たい蕎麦掻き。そこに、福井県敦賀市奥井海生堂の素晴らしい利尻昆布のジュレで香りを閉じ込め、更にキャビアを添え、ウォッカを垂らしたノルマンディー産サワークリーム、天城わさびとのハーモニーが口中に広がります。そして何よりも鼻腔に広がる蕎麦の香りとテクスチャーを堪能できる逸品。

※2 東京両国江戸蕎麦ほそ川の詳細はこちら

スペシャリテに合わせるのは日本酒
栃木県の蔵元:仙禽(せんきん)の日本酒 純米大吟醸 麗(うらら)
加藤のコメント:

料理は芸術作品のようで、見た目も味も素晴らしい渡辺シェフのスペシャリテ。山葵がアクセントに効いていて、この料理は驚くほどの複雑さを持っています。スプーンで1口サイズにして口に運んでも、繊細な素材と調理で各要素が完璧に調和しており、咀嚼(そしゃく)するごとに口中で味わいが変化していき、本当に驚かされる料理です。この料理の奥深さは言葉では表現しきれません。
日本酒も仙禽(せんきん)※3の中でも、最高峰と言える逸品。最大限に磨き上げた純米大吟醸は、とても綺麗で透明感もあり、原料米のポテンシャルを最大限に引き出しています。和のエッセンスがあり重層的なこの料理に完全に調和します。

※3 日本酒「仙禽」の詳細はこちら

神田氏のコメント:

非常に繊細なそばの香りの余韻とワサビのフレーバー、キャビアと昆布のヨードの香りを引き上げながらも包んでくれるのは、懐の深い透明感のある日本酒しか出来ない組み合わせだと思っております。また、このお料理はフランス料理と和の融合でありながらもキャビアとウニ、いか、えびといった生の海産物を合わせることが多い料理です。渡辺シェフのお料理はフランスを必ず感じさせる要素が多いのですが、私自身そばがきに関しては着地点が和の要素を強く感じることもあり日本酒という選択肢を選んでおります。

L’Ayu 2023 été

和歌山の清流からの鮎を米粉焼きと8年熟成パテ シャルトリューズを香らせて
鳥取県倉吉スイカとコンコンブルのルーロー ミント風味と
江戸東京野菜馬込半白きゅうりと花丸きゅうり、キウイのマリネ
冷たいソースオゼイユを添えて

White Wine

ドニ・エ・ディディエ・ベルトリエ “エクセプション” シニャン ベルジュロン ヴァン・ド・サヴォワ
-Denis & Didier Berthollier “Exception” Chignin Bergeron Vin de Savoie-

ワインの詳細はこちら

CHECK

ベノ-ズムでは毎シーズン春夏秋冬ごとに旬の食材を使用した料理を用意しています。

こちらは2023年8回目の夏の鮎料理。フィレは皮目のみに米粉を付け太白油で香ばしく焼き上げ、身側は焼き魚の内部をイメージして直にフライパンに接着させないで間接的に加熱しフワッと仕上げた食感も楽しめる魚料理。鮎パテは鰻のタレ、熟成潤香の法則に基づいて継ぎ足しをして味に”深みと時”のエッセンスが加わっています。まさしくフランスと日本が融合した料理です。

「お客様がいなければレストランは成立しない」という思いから渡辺シェフが考え、来店されるお客様に季節を感じてもらえるおもてなしも一流店ならではの心遣い。

神田さんならではのチョイスに加藤バイヤーも驚きの表情
白ワイン:ドニ・エ・ディディエ・ベルトリエ “エクセプション”
シニャン ベルジュロン ヴァン・ド・サヴォワ
加藤のコメント:

全体を通して”繊細な料理”が共通しており、ペアリングのワインを選ぶのも楽しい反面、大変そうに思えてきました(笑)こちらも繊細ながらポイントで力強さを感じる1皿。鮎パテは鮎の内臓も使用しているので、付け加えることで全く違う味わいへと変化します。素材を活かしつつ、鮎パテを加えることで、料理にアクセントと変化を実現しています。
フランス/サヴォワ地方のワイン。ルーサンヌを使用したレストラン向けらしい白ワイン。ほのかなオーク香、アプリコットやレモンなど柑橘類の風味も感じました。ローヌのイメージが強いマルサンヌ。こちらのワインは、ローヌのそれよりもスパイスのニュアンスが強く、やや後味に苦味を感じる要素が鮎パテとマッチして、心地良い余韻を楽しむことができます。

神田氏のコメント:

毎シーズン鮎が始まる頃には今年は何を合わせようかと頭を悩ませます。川魚である鮎、スイスにほど近いサヴォアは川魚(淡水魚)もよく食す土地であることから川魚との相性は面白いのではないかと考えました。
鮎の身は繊細ですが、鮎の内蔵を使用したパテは力強さもあります。ワインにも繊細さと力強さ同様の二面性があるものが寄り添ってくれるのではと思いました。付け合わせに使われる山椒や木の芽といったスパイス感はベルジュロンの持つほのかなスパイス感と同調してくれます。